【DbD】アーカイブ(学術書)IIコレクション(物語)

アーカイブ(学術書)IIコレクション(物語)

アーカイブIIのコレクション(ストーリー)の一覧です。

アーカイブIIでは、「ジェーン・ロメロ」「デイビッド・キング」「ドクター」「スピリット(山岡凜)」の背景ストーリーが語られます。デッドバイデイライトを起動しなくても読めるように、文章にしていますので、ゲームのキャラクター達をさらに知るための読み物としてご利用ください。

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この世はひとつの舞台 記憶:ジェーン・ロメロ

アーカイブII「ジェーン・ロメロ」の物語

記憶5823(1/7)

ジェーンは求職中だ。仕事はある。地元の食堂でウェイトレスをしている。

だが他の種類の仕事が必要だ。役割。演じる役。何か。正しい道を歩んでいると実感させてくれる何か。自分には学生のバラエティーショーを演じる以上の実力があると実感させてくれる何か。

演劇は愚か者のすることだ!成功する者は一億人に一人もいないだろう。父親は言う。祖父は同意するが、ついでに一言加える…夢を追う勇気があるものは、99%の確率でその億に一になれる。勇気を持て。勇気は運をこちらに引き寄せてくれる。

ジェーンは祖父を愛している。祖父に誇りに思って欲しい。彼が正しいことを示したい。億に一になってやる。

記憶5824(2/7)

メキシコ人ウェイトレスは、メキシコ語と、メキシコ訛りのある英語で喋る。

誰がこんな台本を書いた?メキシコ語なんて言語はない。それはどうでもいい。言いたいことはわかっただろう。彼女の顔は苛つきで火照る。訛りなんて必要ない。どうして?どうして訛り?なぜただのウェイトレスではだめなのか?英語をしゃべるウェイトレス。どうしてこの台本ではウェイトレスがメキシコ人でないといけないのか?どうしてこれがシーンに重要なのか?

ジェーンは監督を見つめ、彼の意図を理解しようとする。趣を与えるためだってどういう意味?趣を与えるなんて思えない。固定概念を増長するだけ。

だが…ジェーンは何も言わない。何も言わないのは、社会正義の戦士としてブラックリストに載りたくないからだ。少数派不満分子なんて言われたくない。スペイン語の訛りを少し混ぜて、彼女はオーディションを終える。

記憶5825(3/7)

ジェーンは友人のドゥエインとビールを分かち合う。ドゥエインはジェーンに、なぜエグゼクティブクリエイターにひどい台本の共著者として雇われたのかを話す。彼の呆れた考えの代弁者として雇われたのだ。彼のアフリカ系アメリカ人の歴史に対する無神経な文化的認識を正当化するために。

このエグゼクティブクリエイターはマイノリティ映画を撮りたいと思っている。流行っているから。認められるのに手っ取り早いから。ヘボライターのためのお手軽出世街道。たくさんのライターがこのヘボに、あらゆる面で彼の台本が間違っていると指摘した。構成が悪い。侮辱的。退屈。無神経。

ドゥエインは、伝統文化に対して無理解な台本を否定した。このクリエイターが文化の盗用で非難されるのを避けられないように、彼の名前をプロジェクトに加えることを拒否した。マイノリティの物語の「栄えある」解釈を正当と認めるのを拒否した。クリエイターはドゥエインを社会正義の戦士と呼んで名誉を傷つけた。そして解雇した。

ジェーンは友人のために悲しげにため息をつく。少なくともその台本は映画化されない。ドゥエインはちらりと疑惑の眼差しをやる。このヘボには金持ちの友達がいる。大金持ちだ。彼はまた台本を書く。監督する。そして制作する。有力筋の友達がいるヘボは何でもできる。こうしてひどい映画が作られていく。彼らはひどい映画で乾杯する。

ジェーンは笑う。面白いからではない。それが事実だからだ。

記憶5826(4/7)

働かなくなってから何か月も経つ。電話もない。オーディションもない。何もない。ジェーンはからっぽのテレビ画面を見つめる。子供の頃は自分がテレビに出るのをよく想像していた。だが今は全く想像できない。

何かがおかしい。自分が成功する未来がもう見えない。機会があればいいのに。ただ一度だけの機会。億に一になるための、一度の機会。だが彼女向けの台本はほとんどない。固定概念が邪魔している。エージェントは気にしないでいいのに。年齢の範囲に当てはまる、すべての女性役に推薦してくれればいいのに。ジェーンはどんな女性役でもできる。主役でも脇役でも。

それなのにオーディションは、セクシーなラテン人だったり、滑稽な移民だったり、訛りのあるウェイトレスだったり。ただの女性…アメリカ人女性だったことはない。女性。アメリカ人。それだけなのに。

ジェーンは真っ白なテレビを見つめる。番組のスターである自分を想像しようとしたが、できない。電話が鳴る。エージェント。オーディション。部隊の大役で給料もいい。一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女は億に一になった気分になる。

記憶5827(5/7)

ジェーンの携帯が鳴る。彼女は歩道で立ち尽くす。これが最後なのに、電話に出たいのか出たくないのかわからない。もう落選はできない。この役だけは。この役はとても重要なのだ。ジェーンは携帯に耳を当てる。電話に出る。

聞き覚えのある声がする。エージェントだ。彼はジェーンにオーディションでどれだけ受けが良かったか伝える。どれだけ皆がジェーンを素晴らしいと思ったか。彼は他のことを話し始める。ジェーンは「でも」を待つ…お馴染みのあれ…どんなにたくさんの称賛も、たった一つの言葉で全部破壊される…でも…それは来ない。

ジェーンは細々とした連絡を聞き、礼儀正しい落選の知らせを待つ。けれどかわりに聞こえたのは…受かったよ…ジェーンは自分の耳が信じられなかった…役に受かったよ…ジェーンは独り言を呟く。受かった。信じられなくて顔が麻痺していく。ジェーンは叫ぶ。通りがかりの人がこちらを向く。ごめんなさいね。

記憶5828(6/7)

ドゥエインはカフェでジェーンのリハーサルの手伝いをする。休憩に入ると、ドゥエインはジェーンに、ヘボライターは今中国の物語を手掛けていて、彼の最新の中国嫌悪を正当化させるために、中国人ライターを必死に探していると伝える。

ジェーンは笑う。金はあるヘボ。そうやってひどい映画が作られる。ジェーンはドゥエインに、舞台はうまくいっているという。訛る必要はない。ミニスカートを履いたり、バカバカしい固定概念を増長する必要はない。昔やらされていた愚かな行為を、今はする必要がない。本物の仕事。意味のある仕事。家族にも伝えられる。

彼女は幸運を願いながらテーブルをコンコンと叩く。ドゥエインは笑って、その儀式は効果があるのかい?と聞く。ジェーンは肩をすくめる。

ドゥエインはジェーンの成功が嬉しいと言って、雑誌からの切り抜きをジェーンにわたす。「クイック・トーク」の公開オーディション。ドゥエインはジェーンを推薦しておいたと言う。ジェーンなら完璧な司会ができるだろうと。

ジェーンはドゥエインに感謝するが、今は舞台に全力を注いでいる。残念だ。君は僕が知っている中で一番リアルな人間だ。ショーに必要なのはそれなんだ。リアルであること。

記憶5829(7/7)

こけら落とし前の最終リハーサルで、滑り込みの台本変更にも関わらず、ジェーンは役を演じきった。ジェーンはアドレナリンと、今までに経験したことのないような大きな流れを感じる。最後の台詞を言い終えると、監督は拍手する。そしてジェーンに近づく。驚いたと。印象的だったと。感動したと。

でも…ジェーンの役はアクセントがあったほうがいいと思うと。何?その要求はジェーンを傷つけた。粉々にした。どうして?理解できない。

ウケ狙いだよ。そっちの方が面白いだろ、と。この役にアクセントはいらない。この役はアクセントなしで十分だ。

でもコミックリリーフになる。コミックリリーフ?それがこの監督にとっての彼女の価値。プロデューサーたちにとって。この業界にとって。コミックリリーフ。

ジェーンは監督を見つめる。監督が笑い出すのを待つ。監督が冗談だというのを待つ。決して言われない謝罪を待つ。ジェーンはため息をつき、先祖の力が血管を巡るのを感じる。裏切ることを許さない力。アメリカ人であることを表す痛々しいイメージが増長されるのを許さない力。

ジェーンは監督に向かって首を振る。バカなコメディアンでも探して。ジェーンは舞台から怒って降りる。己の道を辿る者は、可能性が億に一だとしても成功するだって?そんなの嘘だ。

マンチェスターミックス 記憶:デイビッド・キング

アーカイブII「デイビット・キング」の物語

記憶339(1/7)

キングは傷を負った拳をぎゅっと握る。酔っ払いどもの歓声や怒鳴り声が路地にこだまする。キングは倒れた相手を見つめる。血を流す顔。潰れた鼻。欠けた歯。キングは最後の仕上げとして顔を蹴りつける。

キングはファイトで負けたことがない。今も、そして、これからも。キングに賭ければ大丈夫。キングは群衆を見渡す。ドニーを見つける。賭け事で問題のある古い友人だ。俺に賭け続ければ問題じゃなくなる。

キングは腕時計を見る。家族会議には遅刻だ。

記憶340(2/7)

キングの父は、自分が理解できないことで口答えされると、母を虐待する。いつも同じクソだ。キングは歯を食いしばる。血と熱が顔に上る。喧嘩でキングが負けることがないのは、対戦相手に父親の顔が投影されるからだ。襲いかかりたい。何か言いたい。何でもいい。だが何か言うといつもさえぎられる。

だが今回はキングは正気じゃない。もしくは正気なのかもしれない。父親が母親を殴ろうと手を挙げる。理解するよりも速く動く。一瞬でキングは父親の腕を掴む。次の瞬間キングは父親を積年の恨みを込めて痣ができるまで殴る。キングは母が父を抱き起している間に立ち去る。

出ていけ!もう二度と顔を見せるな!この親不孝者が!出ていけ!

記憶341(3/7)

キングには友達がいたことがなかった。

本物の友達という意味だが。腰巾着はいた。虎の威を借る狐のようなバカ共だ。今は誰もいない。助けてくれるような友達は一人だっていない。かつて学校にいた頃は友達がいた。だが昔の話だ。

キングには金が要る。だが金は木になるわけではないし、キングに挑む者もいない。最後の相手をひどく痛めつけてしまったからだ。キングには仕事が要る。口座の金は尽きかけているし、昔からの浪費癖は直すのが大変だ。

記憶342(4/7)

キングはトミーに会う。トミーのアパートにはキングが住める場所がない。住ませてあげたいが、無理だと言う。ミックが助けようとするが、ミックの母親が許さない。ビルとハリーも同じだ。元カノは新しい彼氏ができて、キングの顔を見るのも嫌らしい。くそったれにはよくある話だ。永遠にホテルの部屋で暮らすなんてできない。貯金がなくなる。

キングは最近見かけた、最後の喧嘩での群衆の中の顔を思い出す。その男とは幼い頃から友達だった。進む道は違えたが彼は本当の友達だった。キングは彼の住所を探す。キャッスルドライブ通り。キングはタクシーを捕まえる。

記憶343(5/7)

キングは長いこと生きている実感がなかった。

心の通った本当の友をどれだけ欲していたかを実感しながら、キングはドニーのアパートで古いエールを飲む。ドニーは、キングが金持ちの生まれと知る前から友達だった。金持ちは本当に豊かってわけじゃないのさ。キングはどうしてドニーがこう考えるのか、何を意味するのか理解できない。ただの思いつき。昔みたいな一杯やりながらの話。

ドニーはキングが身の振り方を決めるまでいていいと言う。キングはそれがいつになるかわからない。問題ないさ。

急にドアが叩かれてキングは驚く。ドニーが立ち上がる。ドアを開けると、黒のレザージャケットを着た数人の男が現れる。筋肉。キングはよく聞き取れない。キングが聞き取れたのは気に入らないことばかりだ。ドニーは金を借りていて、返さなければ顔面に鉛弾がたっぷりと叩き込まれるのだと言う。

ドニーはキッチンテーブルに戻ると笑う。お前のせいだ、キング。誰に賭けていいのかもうわからないんだよ。

記憶344(6/7)

キングは仕事を3回クビになり、一番うまくできる仕事に戻ることにする。挑戦者が薄暗い裏小路で戦いの場に踏み込む。キングの二倍の大きさ。デカい。キングは怖気づかない。他の奴と同じように沈むだろう。

群衆は相手をゲットー・マッシャーと呼ぶ。ゲットー・マッシャーはキングを睨みつける。キングが飽きるほど聞いたルールをレフェリーがまくし立てる。キングは相手を睨む…そして目にする…父親ではなく対戦相手を。

ゴングが鳴る。獣のような唸り声と共に、ゲットー・マッシャーが飛び出す。キングは頭を吹き飛ばすような激しい一撃をかわす。妙な感覚。反応しない。混乱している。ドニーがキングに叫ぶ。キングがドニーをちらりと見ると同時に頭に巨大な拳が当たる。黒色が目の周りに渦巻く。

頭への衝撃は覚えていない。足が崩れたのを覚えていない。腐ったゴミの山に倒れ込んだのも覚えていない。ただドニーのアパートのソファで目を覚ましたのだけは覚えている。強みを失った。憤怒を。激怒を。憎悪を。それだけだったのか?

ドニーが大丈夫か、と聞いてきたが、キングにはわからない。俺は大丈夫なのか?強くなれるのか?わからない。ただのまぐれ当たり?相手に運があったのか?最強の奴にはある。俺はだめな気がする。俺はだめだ。ドニーは最後の金をキングに賭けたのだ。

記憶345(7/7)

キングはバーの仕事に慣れてきている。アルコールで気分を落ち着けながら。ドニーはビールをすすると、キングは戦う他の理由を見つける必要があると言う。キングはドニーに、今飲んでいるビールが小便になって出る前に家に帰れという。トラブルに巻き込まれる前に。

遅かった。キングは二人の男を見つける。彼らはドニーに近づく。ドニーを掴む。ドニーを地下室に押し込む。まずい状況だ。キングはドニーを助けようとするが、マネージャーがバーの仕事を続けるように怒鳴る。知るか。

キングはバーを飛び越えると地下室に急ぐ。ドニーがゲットー・マッシャーに殴られ、アンクル・ブラスが椅子に座ってそれを見ている。キングは躊躇しない。ゲットー・マッシャーにタックルする。強烈な拳が交わされる。ゲットー・マッシャーはついてこれない。

アンクル・ブラスはキングにも相手を仕向ける。問題ない。キングは破壊の突風だ。キングはゲットーの膝を砕き、眼孔に親指を叩き込む。神経でつながったままの目玉が飛び出す。恐怖の叫び声。ゲットー・マッシャーは眼球を覆って医者を呼んでくれと叫びながら、よろめき壁にぶつかる。もう何人かのごろつきが襲い掛かってくる。

そこまでだ!アンクル・ブラスが立ち上がりキングに近づく。貴様のクソ頭を引きちぎるのなんて朝飯前だ。ワシの子分にしてくれたことの仕返しだ。キングはふらつきながらも立ち上がる。俺だってまだまだイケるだろ?ワシのために働くなら、こいつの借金は帳消しにしてやろう。

キングは姿勢をただし、上着をはたく。笑みがこぼれる。キングに賭ければ大丈夫。

支配 記憶:ハーマン・カーター(ドクター)

ドクターの背景ストーリー

記憶1782(1/10)

低能。

カーターはブランチャード教授をそう呼ぶ。この低能は打ち捨てられた納屋での研究課題を主導する二人の学生を選んでいる。カーターは自分が選ばれることを知っている。カーターは神経科学で一番優秀だ。レリー記念研究所で最優秀なのだ…レリー…レリーしかあり得ない。

レリー記念研究所かアラン記念研究所。心理学の限界を規則の先に押し進める研究を政府と行った過去を持つ二つの研究所。規則の先ではない。規則に反して、だ。アラン研究所が発表する論文はカーターを驚嘆させた。魅了した。感動させた。もしカナダ人だったら…アラン記念研究所に行っていたかもしれない。もしくはポピュラーな呼び名、レイブンスクラグ屋敷。彼らが行った実験は素晴らしかった。最先端だった。度肝を抜いた。カーターは自分がクラグ卿の下で学ぶ五十年代の学生だったらと思う。

クラグ卿とはレイブンスクラグ屋敷の天才に患者たちが付けたニックネームだ。クラグ卿は実験から新しい発想を得ていた。訓話などではない。密航し、研究成果と引き換えに政府で高い地位を得るような研究者たちを非難する臆病者のような嫌悪でもない。クラグ卿は彼が聞き及んだ実験を次のレベルにまでもたらした。

そしてカーターは…カーターは同じことをしたいと望んでいる。だが、この教授とではない。ブランチャードとは。ドクター・ブランチャード、ドクター…臆病者ブランチャード。彼には本当の力が何なのかという発想がない。本当の力とは自由だ。真なる自由だ。倫理やモラルの限界を超えた自由なのだ。

記憶1783(2/10)

カーターはもう一人の学生と共に研究課題を進めている。課題は、どこか他の研究所の臆病な低能によって推し進められた「良い研究者と悪い研究者」の尋問テクニックで秘密のキーワードを聞き出すことだ。

カーターは悪い研究者だ。悪い研究者だが規則が付いている…低能に、していいこととしてはならないことを指定されている。制約が厳しい。厳しすぎる。自滅的ですらある。この制限の中で、どうやって何かを聞き出せというのか?当然カーターは、この規則の中での実験は非常に虚しいと実感している。それでも、彼は挑む。

カーターはテーブルの向かいに座っている学生に怒鳴る。怒鳴る?これでどうなるっていうんだ。言え、さもなくば…また怒鳴るぞ。その学生はカーターに真面目に取り合っていない。怖がっているふりをしているだけだ。カーターとごっこ遊びをしているのだ。あいつの頭蓋骨を砕いて、その低レベルで二流の脳みそから秘密のキーワードを引っこ抜いてやりたい。

記憶1784(3/10)

二日目、成果なし。

カーターは苛ついている。本当に苛ついている。奴らは少なくとも縛られている。七人全員だ。だがこれだけでは不十分だ。尋問の厳しさを引き上げる必要がある。

奴らから水と食料を剥奪する。奴らは自白するだろう。奴らの細胞が自食を始めたら…自白するだろう。だがさらに…カーターは睡眠も奪いたい。睡眠の剥奪は…仮面を剥がす。ガードを緩める。数分の睡眠を約束すれば囚人は自白する。七人の囚人はカーターを見つめている。彼らは自分たちは安全だとわかっている。カーターはそれを目の中に見出す。

制限。

制限を守る者はどこにもたどり着かなかった。カーターは同僚を軽蔑する。良い研究者。一人で、規則なしでやっていたら、今頃はキーワードを入手できていただろうに。

記憶1785(4/10)

バカバカしい制限。スキナーの方がわかっている。どうなるか観察するためのだけに、彼は自分の子供を一種の箱に数年入れた。ハクスリーはシークレットサービスに勤め、真実を虚構として『すばらしい新世界』に書いた。『宇宙戦争』はマスプロパガンダの良いテストだった。恐怖と不安を疑いもしない聴衆に植え付けるラジオの力。沈黙と無関心を呼び起こし、完全な消費者を作り出す恐怖と不安の力。

倫理。モラル。限界。羊のためであって、羊飼いのためではない。カーターは良い研究者がクラスメイトを尋問するのを見、今までにない不安を感じる。

カーターは材木の切れ端を手に忍び寄る。拾ったものだ。間に合わせの棍棒を振り上げる。自分が何をしているか悟る前に、カーターは良い研究者の頭を殴った。仲間の学生が怯えカーターを見ると同時に、見せかけの恐怖が本物の恐怖になった。

良い研究者はもういない。ルールはない。制限もない…あるのは彼の想像力の限界だけだ。

記憶1786(5/10)

カーターは学生の一人を椅子に縛る。暖かい血が所々に滴る。カーターは学生の顔から肉塊をちぎり取る…羊は目を逸したが、見上げることはなかった。ひどいうめき声ともがきと共に、カーターは秘密のキーワードを全員の学生それぞれから手に入れる。新しい。帝国。地平線。第四。鳥。殺す。

クラスメイトたちは解放するように懇願する。彼らは椅子の上ですすり泣き、苦しみ悶えている。実験は終わりだと訴える。キーワードは言っただろう!君の勝ちだ!もう終わりだ!

カーターは笑顔を浮かべる。まだ数日ある。数日あれば、あといくつかの実験ができる。経歴に傷がつくことになるかもしれないが…でも…良い研究者は既に排除した。クラグ卿から学んだことを使って、この低能共を無力化し、操作してやる…いや…操作ではない…作り上げる…そう…現実を作り上げるのだ。

記憶1787(6/10)

音楽が鳴り響く。目は爪楊枝で無理やりこじ開けられている。カーターは、恐怖、不安、そして不満を喚起する、耳に聞こえないサブリミナル周波数を持つ音楽をループ再生している。

彼はこの音楽を両親で試した。いつも両親が喧嘩する結果になった。この音楽をどこで手に入れたかは覚えていない。サブリミナル周波数については広告で初めて読んだ。広告主たちはサブリミナル音楽の効果を否定している。もちろん、効果はある。広告主たちはサブリミナル音楽を使っていることを否定している。

だが…本当はやっている。使っているし、効いている。そのはずだ。なぜなら平和と満足は我々の自然な性質だからだ。戦争と不満は何度も何度も繰り返し滴下され、強化され、作り上げられて、ようやく集合認知の主題となる。

ペーパークリップ作戦、ブルーバード作戦、MKウルトラ、MKデルタ、MKサーチ。どれも必要だった。クラグ卿は正しい発想を持っていた。そして素晴らしい本能も。CIAのブラックソーサラーも、ダーティートリックスターも。彼らの影響で、カーターが持ってきたものは彼らの影響を受けている。音楽。アルコール。ドラッグ。たくさんのドラッグ。

一瞬、ほんの一瞬だけ、カーターは躊躇する。これを使うと、長期間牢に入ることになるかもしれない。だが…自由であること…数日の間、真に自由であること…それは無期懲役になってもいいほどの価値がある。

だが俺は捕まらない。捕まるのは良い研究者だ。

記憶1788(7/10)

カーターはこの羊たちを上書きできるか思案する。人格の上書き。この言葉が気に入っている。自分自身の言葉であったら良いのだが、そうではない。電気ショックを与え、終わりなき死と混沌と破壊の画像を見せ続ける。脳にトラウマを与える。空っぽにする。この被験者たちを無力化し、新しい人格で上書きする。

カーターはこの羊たちを狼に再教育できないか思案する。互いに殺し合いをさせる。それよりも…この善良で遵法精神に富んだ学生たちを連続爆弾魔に仕立てる。

彼はランプのコードを引き抜く。コードを裂き、ワイヤーを剥く。露出したワイヤーを学生の口に入れる。学生の恐怖を味わうようにしながらコンセントへと近づける。差し込む。叫びと共にこの模範学生の人格を上書きする。

髪と皮膚の焦げる不快な匂いがカーターの嗅覚器官に届く。もう一つ嫌な匂いがする。低能が脱糞したのだ。カーターは哄笑する。何年もの間、カーターはここまで刺激されたことはなかった。自由だ。ああ…真なる自由だ。

記憶1789(8/10)

カーターは最初にネズミの脳をウサギに移植しようとした時以来、こんな楽しい思いをしたことはなかった。一週間では足りない。もっと時間があればいいのに。もっと時間が必要だ。精神には探索すべき新しい小路がたくさんある。たくさんありすぎて、時間が足りない。

脳を手術する道具があればよかったのに。キッチンにナイフがある。うまくできるかもしれない。外科的な正確さはないが…十分だ。カーターは脳にある目のような形の器官について読んだことがあった。

謎に包まれたドラッグ、ジメチルトリプタミンを隠しているであろう腺。生きた被験者からそれが取り出せるかカーターは考えた。カーターは、多量の人間のジメチルトリプタミンが被験者に及ぼす効果について思案した。

記憶1790(9/10)

カーターはロープの結び目を解く。彼は良い研究者を解放するつもりだ。この学生は既にドラッグを流し込まれ、新しい思考で再プログラムされている。他の学生がロシアのスパイで、国家安全のために処刑されなければならないと信じている。

カーターはローブを解き、学生の手にスクリュードライバーを握らせる。カーターは考えを改める。スクリュードライバーを取り上げ、フォークを渡す。また考えを変える。フォークをスプーンにする。カーターはスプーンが殺人の道具になるところを見たことがなかった。

カーターは良い研究者から離れて後ろに下がる。当惑し、混乱し、再教育済み。カーターは合言葉を言う。月は沈んだ。良い研究者が立ち上がると同時に混乱が確信に変わり、ロシア人スパイに近寄る…スプーンを手にして。素晴らしい。

記憶1791(10/10)

臆病者ブランチャードはカーターが見たことのない男の一団と納屋に戻ってきた。政府の人間のようだ。カーターは笑みを抑えつつ、良い学生が手に負えなくなったと告げる。やりすぎたと。カーターはぎりぎり生き延びたと。ブランチャードはカーターに黙るように命令する。

声のトーンがいつもと違う。低能のように聞こえない。我々はすべてを盗聴していた。カーターは黒スーツの男たちと視線を交わす。理解できない。この無能が侵入し、予想外のことをしている。

ブランチャードはほとんど息をしていない学生を落ち着いて見る。恐れなく。混乱せず。感情もなく。何もない。彼はにやりと笑うと、ドイツ語で何かを呟く。ブランチャードはカーターに微笑みを向ける。

黒スーツの男たちがカーターに手錠をかけ逮捕すると、微笑みはあからさまな笑いに変わる。ブランチャードは囁く。大惨事をもたらすチャンスをものにしたようだね。その手錠はただの見せかけだ。

僕は…僕は…何が起きているのかわかりません。いいや…わかっているはずだ。君は他の者よりも非常によく理解している。ようこそ、MKアウェイクニングへ。

血に染まって 記憶:山岡凜(スピリット)

スピリットの背景ストーリー

記憶5100(1/5)

凜は学校の終わりを恐れて机に座っている。中学校が楽しいからでも、先生のことを尊敬しているからでもなく、剣道を学ばされるのが嫌だから。だが父がそれを要求する。

父は凜に剣の道を実践するように命令する。実践だけではない。卓越。凜は山岡家の一員だ。山岡家には誇るべき遺産がある。侍の遺産。父は凜にこれを毎日教え、そして子どもたちは毎日凜をからかい馬鹿にする。道場に来るなと。竹刀ではなくほうきを持てと。凜は彼らを無視し、最大限努力する。彼女が剣の道で上達すれば、父の機嫌も良くなるかもしれない。

最近父は彼らしくない。苛ついている。短気。直情的。凜にも、母にも、どうすることもできない。父はとても物静かになり、独り言が増えた。父に何が起きているのか凜にはわからない。だが父が苦しんでいるのは知っているし、父をさらに苦しませるのは嫌だ。家族がすべて。いつか刀を持つのも嫌にはならないかもしれない。むしろそれを楽しめるかもしれない。

記憶5101(2/5)

胴着の重さで凜の骨がきしみを上げ、崩れそうになる。凜は竹刀を対戦相手に向ける。さっさと終わらせよう。早く終わらせてよ。相手は凜を侮辱する。彼は、更衣室に割れた窓があって誰かが怪我をする前に凜が片付けろと命令する。山岡清掃員。彼は笑う。彼は凜をネタに清掃員ジョークをもう1つ言う。

凜の顔が急に熱を帯びる。竹刀を彼の喉から体まで突き立てたい。竹と破片が腹を貫いた状態で、あいつがどう笑うのか見てやろう。破片が喉を切り裂く?そんな考え、どこから来た?こんなことを考えるのは自分らしくない。竹刀を構えると体の中に奇妙な感覚を覚える。こんな感覚は今まで感じたことがない。まるで…まるで心の中で龍が目覚めたような。

凜はニヤニヤと笑う対戦相手を見つめる。考えるより速く、凜は飛び出し、相手の頭を打ち据える。皆が彼を笑う。彼の頭は敗北と屈辱が混じり合い項垂れている。少年は信じられないように、大きく見開かれた目で凜を見つめる。彼は瞬きする。君も山岡一族なんだな。

凜は認めたくなかったが、だが…勝つのはいい気分だった。違う。勝つのではない。相手を叩きのめす。他の人間を叩きのめす。他の人間を叩きのめす?どうしてこんなことを考える?私はこんな風に考える人間ではない。だが、確かに自分がそう考えたのだ。

記憶5102(3/5)

何が起きたのか凜は理解できない。

目の前の少年と戦う力を凜にもたらしたのが何なのか。彼はもう笑っていない。彼は凜を睨みつけている。凜は彼を倒した。一度ではなく。二度ではなく。三度も。少年たちは口を開けて凜を見続けている。山岡清掃員の中で、何かが変わり始めている。少年たちは気づいている。凜は気づいている。

凜は、心の中で目覚めつつある龍を感じている。剣士として…兵士として…山岡一族として存在することに近い感覚…そしてその感覚は心地よい…尊敬を受けるのが…認められるのが。凜は一瞬、自分が偉大な山岡錬次郎とその息子華山の側に立っているのを想像する。心の中で何かが動き、龍が蠢く…そして龍…彼女は気づく…滾る山岡家の血が目覚めているのだ。

記憶5103(4/5)

山岡清掃員!運が良かったな!その運がまだ尽きていないか、試してみようぜ!少年たちが凜に近寄る。罵りながら。冷やかしながら。叫びながら。凜は逃げたいが、隙がない。

凜は謝ろうと考えるが、心の中の目覚めた龍がそれを許さない。凜は悪いことは何もしていない。凜には謝る理由がない。凜はするべきことをようやくしただけなのに、少年たちは凜がズルをしたとして近寄る…まるで凜を助けた龍が見えたかのように。凜は恐れた。龍はどこ?祖先の魂はどこ?凜は手を上げ、いじめっ子たちにやめるように懇願する。

仕返ししてやる!バカにしやがって!一瞬二人の少年の間に隙間が見える。躊躇う暇はない、行動するのみ。凜は間を駆け抜け、怒れる少年たちの一団に追われながら、校庭を横切る。凜はゴミ箱の影に素早く身を潜めると、その横を駆け抜けていく少年たちを見る。

一人立ち止まる…ゴミ箱に向かう…目が細まる。凜は息を潜める。心臓の音が頭の中で響く。

なぜ隠れる!?あの蛆虫どもよりずっと強いのに!立ち上がれ、そしてお前の姿をあいつらに見せつけろ!

だが凜は隠れたまま。凜は隠れ、目覚めた龍が眠りに戻るのを願う。

記憶5104(5/5)

凜は隠れ場所から出て、長い帰路につく。心の中の龍は隠れたことを叱る。凜はいじめっ子たちよりも強いと。いじめや嫌がらせに委縮してはならないと。

凜は何をすればよかったのか。どう考えればよいのかわからない。向き合うべきだったのかもしれない。立ち向かうべきだったのかもしれない。奴らを打ちのめして、手足を引きちぎるべきだったのかもしれない。手足を引きちぎる?何を考えているんだ?どこからこんな考えが来た?引きちぎる?なんて残酷な考えなんだ。

だが凜が自分の疑問に答える前に、声が聞こえてくる。聞こえてきたのは…いじめっ子が冷やかしたり侮辱したりする声。凜は振り返らない。凜は逃げない。凜は逃げない、なぜなら次に起こることは予想しているし、気にしないから。凜の中の龍が、何も問題はない、と告げる。

少年たちは凜にゴミを投げる。山岡清掃員!山岡清掃員!山岡清掃員!

次に何が来るかはわかっている。かつての侍のように、心の眼で見える。少年たちは凜を押し倒すだろう。囲むだろう。殴り、蹴るだろう。だが今回は、痛みに屈したりはしない。恐怖で麻痺したりなどしない。恐怖と苦痛を龍の糧とするのだ。今日、いじめっ子たちは爪と牙を味わうだろう…彼女の怒りを…そして心に刻むのだ…凜は山岡一族であると!

観測

アーカイブ:観測

アーカス328(1/10)

すべての思考力を持つ人の芯には好奇心がある。未知の領域からの知識への欲求、だがこの深淵が持つ空白の空間で見つかるのは…宇宙は巨大すぎて理解できないものだ、ということだ。物事を理解しようとするのはやめておいた方が良い、さもなくば我々の気が狂うだろう。

万物の壮大な計画において我々が無意識であるという真実に対峙するより、無知を享受するのが良い。無限の虚無に対し、我々は果てしなく、無頓着な宇宙のシチューの中のただの微生物である。シチューと言ったが…エンティティは恐らく血溜まりに近いだろう。

アーカス7547(2/10)

夜更けのウィスキー。妙な後味…最高のウィスキーを作り出す世界からもたらされた味。ウィスキーで見る夢は最高だ。故郷の夢、失われた時間を友人や家族と共に楽しむ。

正気に戻ったとき、私はこの牢獄の宮殿を上下逆さまにしていることに気づいた。だが何も覚えていない。すべて、酔っ払いの霞んだ記憶。他の世界の記憶から作り上げた、たくさんの絵画や像…粉々だが…現実の感覚を失いつつあるが、良いことなのかもしれない。いつか現実は次の世界と混じり合い、私はウイスキー、叫び声、そして敗れた夢の果てしない流れがごちゃまぜになった中で、自身を見失っていく。

アーカス3212(3/10)

窓から不思議な光と共に何かが動くのが見える。黒い霧を透かして輝き、私を招いているのが見える。それでも私は立ち去れない。動けない。私はオーリスを通してでしか物体を受け取れないのだ。

あの光は何だ?エンティティが送ってきたクリーチャーか?生存者か?それとも、私のように故郷から連れ去られ、帰り道を探している人間かもしれない。不自然な風が音を立て、私は幻覚のような動く光を見つめる。こちらを見る忌まわしい目。私に手を伸ばそうとしている。私に何かを伝えようとしている。奇妙なリズムで動き、何かを告げようとしている。

アーカス345(4/10)

最近、思考や感情の甚大な重要さと、そしてエンティティがどのようにそれらを使って儀式を彩っているかを、生存者達が認識できているのかについて考えた。パラレルワールドで他の誰かとして生きるのがどのようなことかを私にちらりと教えてくれる。思考や感情、暇つぶしにもってこいだ。

アーカス1043(5/10)

エンティティの領域を観察している。目に映るのは、不調和、混沌、不安、恐怖…だが見かけに騙されているのかもしれない。ベールの向こうには他の真実があるのかもしれない。私が見ているものを言葉に書きつけようとするのは、馬鹿げてはいなくても無意味に感じる。

アーカス767(6/10)

オーリスは故郷ではほとんど理解されていなかった。公正に言えば、オーリスの価値を議会に説明する機会が与えられなかった。もし彼らが時間を割いて理解してくれたなら、認識してくれたことだろう。私にはオーリスの仕組みについて検証可能な説明はないが…理論があった。

最も合理的なのは、オーリスがトリニティ法の原則に従って作用するということだ。創造におけるトリニティ法。我々の祖先によって長く支持されてきた概念で、歴史の中で忘れ去られた。だがこの概念は複雑ではないし、魔法でもないし、神秘でもない。二つの物を組み合わせれば三つ目のものができることを示唆しているだけだ。

父と母から子ができる。アイディアと情熱から、新しい何か、現実味がある何か、持続的で意味のある何かができる。思考と感情。そこにはオーリスの最高の理論があり、オーリック粒子からどのようにして創造が可能であるかという説明ができる。

故郷の先駆者たちの失敗は、思考だけで十分と考えたことだ。現実には、思考は数式の半分でしかない…もう半分は感情。感情と情熱こそが創造の炎を焚きつける燃料となるからだ。オーリスは発現を増幅し、思考の鋳型と情熱の炎を以て新しい何かを鋳造する。もしくは…ここに長くいすぎたせいで、暇潰しがてら理論を理解しようとしているだけなのかもしれない。

アーカス293(7/10)

今より悪い状況になる可能性もあった。オーリックの霧のない次元に追放されていてもおかしくなかった。オーリックの霧には数え切れない犠牲者たちの記憶の痕跡が含まれている。私を楽しませ、時間を忘れさせてくれる記憶。コイン集め、霊魂集め…それに音楽…いくつもの歌に楽曲…パラレルワールドごとの違い…暇潰しが捗った。歪んだ考えだが、エンティティがオムニバースから浴したものを、いかなる物、いかなる時でも奪ってくるのはありがたいと認めつつある。

アーカス632(8/10)

オーリスのようなものでエンティティの中に現実を出現させているヴィゴの記憶を、リフトを通してまた一つ手に入れることができたと思われる。彼が霧の陰謀を理解するに至った過程は、奇妙なものでもあり、勇気づけられるものでもある。恐らくこの場所は、オムニバースに広く存在する我々の無限の人格と、個人とのつながりを増幅するものと示唆しているように感じる。

アーカス9873(9/10)

キングのやり方は非常に愉快なものだ。気分を盛り上げたいときに、何度も繰り返すお気に入りの記憶のひとつは、記憶2332だ。

ガソリン男。キングはローンの支払いを何度か踏み倒した男に掴みかかる。髪を掴んで、小路に引きずり込む。キングは金属製のガソリン缶を掴み、この愚か者に中身をかけると、マッチを灯す。男が恐怖で叫ぶのを、キングは揺れる火を通して見つめる。

そして彼はマッチを男に投げつける。火が男の胸に触れるのと同時に、男は目玉を剥く。火は地面でジリジリとくすぶっている。支払いをしなければ次は本物のガソリンを使うと、キングは男に告げる。天才だ。

アーカス9082(10/10)

マックスの腕前は優秀だ。農夫が納屋から飛び出した。狙い澄ました鋤の一撃で彼の頭は跳ね飛ばされ、熱い血が体から、間欠泉のように二か所から噴き出した。

彼は頭をなくした男が滑稽によろつき、じわじわと広がる熱い血溜まりの中に倒れるのを見た。この記憶は一度以上見たのを認めなければならない。お気に入りの一つだ。マックスは心がかき乱されるくらいに愉快だし、死の幻想は魅力的だ…遠くから見る限りは。

発覚

アーカイブ:発覚

アーカス893(1/4)

何人かの生存者が儀式から逃れようとして正気を失った。彼らは以前の肉体の記憶があったので、ある生存者は逃れられた悪夢が繰り返されていることを認識して頭を壁に打ち付けていた。他の生存者は彼を泥の中に引きずり込み黙らせた。

私には、生存者は儀式を行うたびに光の強さを失っていく灯火のように見える。何人かは感覚を完全に失い、虚無のうちに命を失った。他の者は狂ったようにうわごとを言い、他の者によって黙らされる必要があった。

アーカス223(2/4)

エンティティについて熟慮するにつれ、アーカイブの中に不気味で見えない存在を感じた。牢獄の外に立っている殺人鬼の重い息遣いが聞こえるような気がした。

闇の中、立ち上る霧を覗いたが、何も見えなかった…エンティティが私の存在に気付いているのか、私の計画を終わらせるべく殺人鬼を送る準備をしているのか…それとも、生存者の記憶が私の個人的な記憶と混ざり合っていて、この音はオーリスを使いすぎている副作用に過ぎないのか。

結局のところどうでも良い。エンティティを終わらせられるならば、それが私自身の消滅を意味しようとも構わない。エンティティが破壊しようとしている世界の救済に比べれば、私の命など取るに足りないのだ。

アーカス1032(3/4)

暗すぎて認識のできない世界からやってきた。暴力的な殺人鬼と神を持たぬ残虐な者たちによる奇妙な儀式の、支離滅裂な経験。私は自分から記憶をふるい落とす。

不快な匂いを放つ死体に満ちた洞窟に私を引きずり込む記憶。匂いはあまりに不快でその後数時間吐き気を催した。口の中にはまだひどい味が残っている。その匂いを思い出して身震いする。

あの恐ろしい匂い、腐りゆく人間性。人の成れの果て、あの不愉快な生き物が、なぜこのうんざりするような穴を棲家にしているのか、想像もつかない。

アーカス7453(4/4)

精神がひどく張り詰めている中でメモをとっている。生存者の記憶が一日中私の感覚に侵入してきた。だが私は故郷に集中し、勇気を奮い起そうとする。もうしばらくオーリスを使っていないのに、生存者たちの生命の記憶に不規則に出たり入ったりしている。この記憶…このアーカイブは、オーリスが私を深淵に押しやろうとも、私が私自身を思い出す手がかりとなることだろう。

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